「観客の腕に噛みついて、歯型をつける。そういう映画を作りたい」『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』江戸木純と山崎圭司のトークショーで明かされたジェームズ・アッシュクロフト監督の真意。

レポート
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タイトル写真 新宿武蔵野館のロビー展示物
取材・文:後藤健児

 判事として長年にわたり正義を執行してきたステファンは、ある日に病で倒れて車椅子生活となる。ケアハウスに入居した彼を待っていたのは、悪魔のような独裁者デイヴ。「ジェニー・ペン」と名付けた人形を手にする邪悪なデイヴは、入居者の老人たちを支配し、いじめ抜いていた。新たな標的となったステファンはデイヴからの執拗な虐待を受けるが、職員に訴えても取り合ってもらえない。自らが信じる法の手が及ばない支配空間で追い詰められたステファンは、自身を守るため、そして正義を果たすためにデイヴとの死闘に身を投じていく……。
 ニュージーランドから、いまだかつて誰も見たことのない“老人×ドール”スリラー『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』がやってきた。監督を務めるのはジェームズ・アッシュクロフト。今年、Netflixでのリリースが予定されているロバート・デ・ニーロ主演『THE WHISPER MAN(原題)』も控える注目のディレクターだ。 オーウェン・マーシャルの小説を原作に、アッシュクロフトとエリ・ケントが脚本化。『何がジェーンに起こったか?』(1962年)と『カッコーの巣の上で』(1975年)の融合を目指したというそのシナリオのテーマに二大名優が同調した。元判事の新入居者ステファン役にジェフリー・ラッシュ。体が弱っても毅然とした態度で悪に立ち向かう。老人たちを支配するデイヴをジョン・リスゴーがまたも悪魔の笑みを浮かべて怪演。高齢をものともしない壮絶なつかみ合いを演じきった2人は、その演技で第57回シッチェス・カタロニア国際映画祭の最優秀主演男優賞をダブル受賞。『サスペリア PART2』(1975年)のからくり人形に比肩する恐怖のドール「ジェニー・ペン」のデザインを『M3GAN ミーガン』(2023年)のポール・ルイスが手がけたことでも話題となった。

新宿武蔵野館に掲示されたポスター

 2026年6月12日より日本公開が開始されている本作。6月13日には東京・新宿武蔵野館にて、映画評論家で本作を配給した江戸木純と、映画ライターの山崎圭司によるトークショーが行われた。
 キツイ描写もあるハードな内容の本作。江戸木が「いかがだったでしょうか。なかなかキツイ映画だったと思いますが」と言い、山崎は「皆さんのご機嫌がななめじゃなきゃいいんですが」と笑わせながらトークはスタート。まずは邦題『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』について(原題は「The Rule of Jenny Pen」)。日本のバンド、ジューシィ・フルーツの「ジェニーはご機嫌ななめ」が元になっていると思いきや、邦題を考えたあとで気づいたそう。江戸木はジェフリー・ラッシュとジョン・リスゴーの演技合戦に圧倒されたというが、買い付けたもうひとつの理由は恐怖のドール「ジェニー・ペン」。江戸木は「この顔に魅入られてしまった。絶対にポスターはこの顔でいかないと」と思い、「ジェニー・ペン」がデカデカとスペースを支配するポスターが出来上がった。特にポスターに使われているのは「ジェニー・ペン」が怒った顔。その形相に「ハートを射抜かれた」と江戸木は述懐。人形の顔を大きくフィーチャーしたポスターデザインは日本だけらしいことも明かされた。
 山崎はまず本作を観た際、老人ものの観点から受け止めた。「一番恐かったのは、昨日までできていたことが今日できない。自分がもしそうなったら、歯がゆいだろうな」と誰しもに訪れうる将来への不安を感じたという。
 人間の底知れぬ恐怖を描いた映画だが、猫も不気味に登場する。しかし、原作小説に猫は出てこない。江戸木は「監督がいろいろ下調べをしたら、動物を飼っている施設が多かったそうです」と説明。また、猫は魔性を呼ぶというモチーフも含め、脚本に入れ込んだという。
 主演の2人はどちらも高齢だが、江戸木は昨今の娯楽映画における主演俳優の高齢化に言及。「いま、いろんな映画がありますけど、基本的に皆老人の映画だったりします。昔、アクションスターだった人がいまもずっと出ている。ジャッキー・チェンも70歳を超えています。ラジニ・カーントも70歳を超えたいまもずっと同じことをやっている」と指摘。だが、本作のように老人ばかりの映画は少ない。そこには資金が集まりづらいというビジネス上の問題がある。「ホラーやスリラーは主人公が若い人じゃないと、お客さんが来ないから、作らせてもらえない」監督はそう最初に言われたという。けれど、本作はラッシュとリスゴーが脚本に乗り気となってくれたこともあり、実現に至った。
 山崎が言うにはリスゴーは当初、演じるデイヴのキャラクターの背景がよくわからなかったという。監督に原作を送ってくれるよう頼んで小説を読んだところ「(デイヴが)若いとき、判事のステファンが偉そうな演説をするのを見ていたという細かい描写があり、リスゴーは“これだ!”と役をつかんだそうです」と明かした。
 話はいよいよ人形ホラーに移る。原作では紙粘土で作られた人形だったが、映画ではパペット型。目玉がなく空洞になっているところが異様だが、最初は目があったものの、製作を進めるうちになくなったのだとか。江戸木は「人形はリスゴーの分身。独裁者や人をいじめる人間は基本的にはからっぽの人間だから、それを含めて目がないほうがいいんじゃないか」と監督の意図を伝えた。
 人形のデザインは、殺人ロボットのミーガンも手がけたポール・ルイスが担当。「ジェニー・ペン」は3つの作品からインスピレーションを受けたことが明かされる。人形劇の『セサミ・ストリート』、オムニバス作品『恐怖と戦慄の美女』(1975年)、そして腹話術スリラーの『マジック』(1979年)だ。

資料を交えながら作品を深堀する2人。(左から)江戸木純と山崎圭司

 山崎は人形ホラーには3つのパターンがあると分析。「『恐怖と戦慄の美女』は人形自体が魂を持って動く。『マジック』は歪んだ心を代弁してくれる。もうひとつは『死霊館』シリーズのアナベル。アナベルが斬新だと思ったのは、アナベルを使って怖がらせておいて、その心の隙に悪魔が忍び込む。そのための道具として使っているのが第三の人形の利用法で面白い」と解説。
 トークタイムもそろそろ締めが近づく。陰湿な老人いじめが徹底的に描写される本作を手がけたアッシュクロフト監督。彼には「観客を楽しませるつもりはない」のだという。「観客の腕に噛みついて、歯型をつける。そういう映画を作りたい」と江戸木は監督の思いを代わりに伝えた。その姿勢には江戸木も惚れ込んだようで「これからもそういう映画をたくさん作ってくれるんじゃないか」と期待している様子だった。

『ジェニー・ペンはご機嫌ななめ』は6月12日より戦慄の公開中。

■クレジット(公式サイトより)
<キャスト>
ステファン・モーテンセン:ジェフリー・ラッシュ
デイヴ・クリーリー:ジョン・リスゴー
トニー・ガーフィールド:ジョージ・ハナレ
ホーウィー・ウィッカー:イアン・ミューン

<スタッフ>
監督:ジェームズ・アッシュクロフト
脚本:イーライ・ケント ジェームズ・アッシュクロフト
原作:オーウェン・マーシャル
製作:キャサリン・フィッツジェラルド オーランド・スチュワート
製作総指揮:ジェームズ・アッシュクロフト イーライ・ケント ジョン・リスゴー ジェフリー・ラッシュ ニコラス・ラゾ サミュエル・ジマーマン エミリー・ゴット
撮影:マット・ヘンリー
音楽:ジョン・ギブソン
音楽スーパーバイザー:アミン・ラマー
編集:グレッチェン・ピーターソン

ライト・イン・ザ・ダーク・プロダクション/ブルースキン・フィルム
協力:ニュージーランド・フィルム・コミッション/ヒンターランド
Light in the Dark Productions Blueskin Films
In association with the New Zealand Film Commission and Hinterland

2024年/ニュージーランド/英語/カラー・ビスタサイズ(1:1.85)/104分/日本語版字幕:松浦美奈/配給:エデン
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