「大人になると見えなくなるものがある」第26回東京フィルメックスで『左利きの少女』(原題)が上映。台北の夜市でたくましく生きる母娘の物語に託したものは何か。ツォウ・シーチン監督が思いを述べた。

レポート

巻頭写真 (左から)プログラミング・ディレクターの神谷直希、ツォウ・シーチン監督
取材・文:後藤健児

 2025年11月21日~11月30日の期間に開催された第26回東京フィルメックス。先日アップした記事では、ユン・ガウン監督の『The World of Love』(英題)を紹介したが、もう一本『左利きの少女 』(原題)も紹介したい。
 台北の夜市で日々を生き抜くシングルマザーと2人の娘と”悪魔左手”をめぐる物語。ツォウ・シーチン監督はショーン・ベイカー監督『テイクアウト』(2004年)を共同監督し、ベイカーと協働している。本作においては、ベイカーが脚本、編集、プロデュースとして参加。ベイカーの諸作品で感じる、ストリートで生きる“人の営み”がカラっとしたテンションで描かれる。登場人物を呑み込む清濁が夜市のきらきらした電飾に照らされまばゆく光る人間ドラマだ。

『左利きの少女』ポスター

 11月24日、有楽町朝日ホールでの上映後にはツォウ・シーチン監督が登壇し、観客とのQ&Aに応じた。子役はオーディションなのか、演技指導はどうしたのかとの問いに、姉役は員すらインスラグラムで見つけたことが明かされる。ストリートキャスティングを求めていたと言い、「写真を見て自分が描いていたイメージとピッタリだった」とシーチン監督。演技のクラスを受けたばかりのタイミングだったというが、「自分自身が体験した経験をベースに演じてほしい」と伝えたのだとか。
 次女役とは出会ったのが6歳のときだったが、すでに3年のプロの経験があった。自分の母親と姉が喧嘩しているシーンでは、ゲーム感覚で想像力を働かせて演じてもらったことを解説。
 続いて、ショーン・ベイカーは本作にどう関わったのか。彼と学校で出会ったとき、シーチン監督が出した企画が本作だったそう。当時、台湾にもシナリオハンティングに来たそうだが、難しかった。その後、綿密なリサーチを重ねていったという。不法移民の青年の物語『テイクアウト』(2004年)が劇場公開されたあと、『左利きの少女』の企画を再始動しようと、ベイカーと台北に行き、一か月かけてロケ場所を見つけた。そこでは劇中と同様に、母親と少女が店を営んでいる人とも出会った。当初は資金が集まらず時間がかかり、「当時の女の子はいまでは20歳になりました(笑)」と冗談を交えながら苦労話を語った。
 日本在住の台北の観客からの質問では、台北をカラフルな色彩にした理由について問われる。監督は映画が万華鏡から始まることを踏まえ、「少女の視点で捉えてほしかった」と説明。夜市を歩いているときの少女の視点の高さにもしていると言い、没入感を求めたのだそうだ。続けて、「大人になると見えなくなるものがある」と監督は口にした。また「夏が舞台なので、観ている人にもそこを感じてもらいたい。明るく湿度を感じられるトーンを感じてほしい」とも語った。
 監督の自伝的な部分が入っているのかと問われたシーチン監督は「“左手が悪魔の手”という話は自分も聞かされ、自分も元々は左利きだったのものを直された」と明かす。それから「直されたのは幼稚園の頃で、次女のイージンと同じように混乱していた」と当時を振り返った。同時に反骨心も持っており、そこは姉のキャラクターと通じるのだという。そして「母親になったいまでは母親のキャラクターの気持ちもわかる」とそれぞれの人物は自分自身と重なっていることを述べた。
 監督の人生を密接に関わる物語であることを知った観客は、きっと帰り道でQ&Aのことを思い返しながら、監督が映画に込めた思いを何度も受け止め直したことだろう。
 今後の東京フィルメックスにおいても、作り手と観客がつながれる場が作られることを望む。
【本文敬称略】

第26回東京フィルメックスは2026年11月21日~11月30日の期間に開催。以下は各受賞作品。

■最優秀作品賞:『サボテンの家』(ローハン・パラシュラム・カナワデ監督)
■審査員特別賞:『しびれ』(内山拓也監督)
■スペシャル・メンション:『枯れ葉』(アレクサンドレ・コベリゼ監督)
■観客賞:『左利きの少女』(ツォウ・シーチン監督)
■学生審査員賞:『枯れ葉』(アレクサンドレ・コベリゼ監督)
■タレンツ・トーキョー・アワード2025:『Luzonensis and Floresiensis.』(グレン・バリット監督)
スペシャル・メンション
『Square Horizons – A House Across』(チェン・ジェンハン監督)
『The Void is Immense in Ilde Hours』(サム・マナクサ監督)
『Home-work』(くわやま あつし監督)