巻頭写真 審査員と授賞者の集合写真 ©KADOKAWA/KeyHolder
取材・文:後藤健児
※記事中掲載の授賞式の一部写真はオフィシャルから提供された素材となります。
2026年5月30日(土)に第4回日本ホラー映画大賞の受賞式が東京・グランドシネマサンシャイン池袋で行われた。これからを担う新たなホラー映画作家を見いだしてきたこの賞も今回で3回目。第1回大賞の下津優太監督(『みなに幸あれ』)と第2回の近藤亮太監督(『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』)はそれぞれ商業映画デビューを果たし、今後の新作も控えている。第3回の⽚桐絵梨⼦監督(『夏の午後、おるすばんをしているの』)も2027年に商業映画監督デビューが予定されている。
株式会社KADOKAWAと株式会社KeyHolderによる共催で行われた第4回。今回の審査員は清⽔崇、堀未央奈、FROGMAN、⼩出祐介、宇野維正、ゆりやんレトリィバァ(海外滞在中のためリモート登壇)らお馴染みの面々に加え、道尾秀介も参加。皆が悩みに悩んだ選考の末、大賞をはじめとした期待の恐怖演出家たちの作品が選び出された。
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ギークピクチュアズ賞とシネマンション賞のダブル受賞となったのが 『現身(うつしみ)』(三重野広帆監督)。海外にいるため登壇は叶わなかった三重野監督のコメントが読み上げられる。「気づけば仕事でもプライベートでもホラーばかりを作るようになっていました」と言い、第1回目から応募し続けたことを振り返って「毎回もう無理だと思いながら」もアイデアを絞り出して今回も挑戦したことを明かした。
『きしむ椅子』(宮本亮監督)もシネマサンシャイン賞と株式会社闇賞のダブル受賞。“怖いだけじゃなく面白い。椅子というものを使った匠な表現”と評価され、椅子という部分に特化し、ほぼ一部屋で撮りきる引き算の演出も審査員をひきつけた。宮本監督は『死霊のはらわたⅡ』(1987年)やジャッキー・チェンからの影響を語り、笑いのセンスの源流が垣間見られた。
『人殺し』で豆魚雷賞を勝ち取った早田優太監督は壇上に上がり、「『人殺し』の早田優太です」と冗談を交えた自己紹介を繰り出し、審査員と、場内に集う観客たちから笑いを取る一幕も。選考理由として、緩急のあるドラマがしっかりと展開されていることに言及がなされ、ファーストカットの桜の咲き具合に称賛が集まった。脚本では想定していなかった雨降りに見舞われるも、それをうまく活かした画の完成度が審査員たちをうならせたようだ。
PRESS HORROR賞は二人体制で作られた『誰かと誰かと』(金内健樹監督)。“切なさや物悲しさがあり、ファンタジックな映画に仕上がっていた”と評価された。金内監督は第3回で応募するもそのときは落選。今回の入賞での喜びもひとしおだったようで、「(入賞作の)このラインナップに私のものが入っていて、こんなにめでたいことはありません」とコメント。
今回の最年少となる、現役高校生監督の『ヒバリ:序章』(田中弘誠監督)がニューホープ賞を授与された。FROGMANは不安をかきたてるダッチアングルの構図や、照明などの演出意図が伝わってきたと言い、昨今の技術の加速度的な進化の中でのショート動画や縦型動画の流行の中で「あえてこういう映像、しかもホラーに挑戦したのは頼もしいというか、自分も勇気づけられた。行く末が楽しみ」と今後の活躍を期待した。
残す発表作はあと2賞。選考委員特別賞は 『ゴボゴボギュギュ』(澁谷桂一監督)。何らかの怪異によって街の人々が狂い、血反吐を吐き、倒れていく不条理ホラーだ。インパクト大の題名だが、清水も「このタイトルにやられました。内容を観ても狐に包まれるような。ホラー映画大賞の幅を広げていただいている」と澁谷監督の独創性を大いに評価。澁谷監督は第3回に応募した『蠱毒』でも審査委員特別賞を受賞している。今回、大賞とはならなかったことを「本音を言えば悔しさもある」と正直な気持ちを伝え、「映画をやることにしか興味がない」と力強く語った。
いよいよの大賞が発表される。『chorus(コーラス)』の山城研二監督だ。謎の女を遭遇した人物が狂気にのまれてしまう、黒沢清『CURE』(1997年)を想起させる不穏さが充満した一作。時折に映し出される恐怖と狂気と戦慄が入り混じった顔面の持つ“圧”が観る者をも、闇の奥へいざなう。清水は「正直、悩みました。他にも素晴らしい作品がたくさんあった。選考委員の中でもいろいろ喧々諤々があった中で、今回『chorus(コーラス)』になりました」と大賞が決まるまでの経緯を明かした。山城監督は「インの前日まで脚本を直し、本読みも一回もできなくて」と制作における苦労を話しつつ、「今日は沖縄から母と叔母が来てくれて、(この栄誉を)見せられてよかった」と喜びを語った。
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©KADOKAWA/KeyHolder
後半は講評タイム。優れた作品がそろったものの、清水は「僕個人としては、第3回までにあったような、観たことない“ドン!”という作品が今回はなかった」と率直な意見を述べながらも、「ノミネートされなかった方も悔しさはバネにしてこそ。なくしてはいけないもの。作り続けていただければ」と挑戦者の皆にエールを送った。
宇野も「第1回、第2回の受賞監督が商業映画の2本目を撮っている。痕跡も残している。じゃあ、この物足りなさはなんだろう」と忌憚なく言い、「運営批判になるけど」と前置きしたあとに、本賞の応募期間の短さや、締め切り時期の不明瞭さに関して「いつを目指したらいいのかわからない」と指摘した。その上で、本賞が果たした功績を踏まえて「素晴らしい賞だと思います」と伝えた。
今年公開された『禍々女』でホラー映画監督デビューを飾ったゆりやんは「怖さというのは、人間の数だけ、脳みその数だけ、方向性があるんだな」と恐怖の多様性に言及。
堀は各作品の繊細さに触れ、「皆さんの“細かく演出したい”という日本の作品のよさ、Jホラーのよさがありました」と語った。
今回、審査員として初参加の道夫は自身の立ち位置である作家の観点から「(応募作が)こんなにクオリティが高いのか。小説家を目指している人はもうちょっと頑張ったほうがいいんじゃないか」と述べた。また、同じくストーリテラーの立場から道夫は、怪異の正体が解明されないままの作品(いわゆる“オープンエンディング”もの)が今回の応募作にも複数あることに関して、作者の頭の中にも答えがない場合があるのではと言及し、「『chorus(コーラス)』にはそれがあった。表現されていなくても、明確なものがあると感じさせてくれる作品が好き」と語った。このテーマに清水も乗っかり、不条理な作風は世界的な流行になっていることを指摘。宇野はオープンエンディングに関して、映画ジャーナリストの観点から「そういうものが許容される時代になっているのかも」と冷静に分析。
大賞に輝いた『chorus(コーラス)』も不条理系に属するが、小出は「世界観と登場人物がおかしくなっていくところを、こっちに考えさせる余白がある」と“あえて語らないこと”がうまく作用していたことを評価した。
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©KADOKAWA/KeyHolder
他にも今回の傾向として、スプラッター系やゾンビ系、フェイクドキュメンタリー系が少なかったことが挙げられるなど、講評タイムは続く。『chorus(コーラス)』のタイトルに込めた意味について意見が交わされる中、ゆりやんは「身を凍らす(コーラス)」と渾身のギャグを披露し、清水が「それはいつから言おうと考えてました?」と即座に返す、爆笑のやりとりもあった。そうして時間が来てしまい、最後に清水が締める。「人生をかけて毎回応募してくれる人がいる。選考委員長を引き受けるのが毎回重くなってきて……」と吐露。それから、本賞のこれからに思いを馳せて「ずっと続いてほしい」と願いを込めた。
娯楽の供給過多と消費スピードが加速度を増す現在系の映画シーンだが、講評タイムで宇野が「ホラーは流行っている」「(ある程度の予算以下での)サプライズヒットは世界的に見ても、ほぼホラーでしか出ていない」と言及したように、ホラーは元気だ。本賞に挑戦した作り手たちが今後も元気を出してホラーづくりに邁進してくれることを筆者も願う。
【本文敬称略】
©KADOKAWA/KeyHolder
あらためて、受賞結果は以下。皆、おめでとう。
●大賞:『chorus(コーラス)』(山城研二監督)
●選考委員特別賞:『ゴボゴボギュギュ』(澁谷桂一監督)
●ニューホープ賞:『ヒバリ:序章』(田中弘誠監督)
●株式会社闇賞:『きしむ椅子』(宮本亮監督)
●シネマンション賞:『現身(うつしみ)』(三重野広帆監督)
●PRESS HORROR賞:『誰かと誰かと』(金内健樹監督)
●豆魚雷賞:『人殺し』(早田優太監督)
●シネマサンシャイン賞:『きしむ椅子』(宮本亮監督)
●ギークピクチュアズ賞:『現身(うつしみ)』(三重野広帆監督)
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