『デスストーカー』狂乱のコスタンスキ・ファンタジックワールド!

レビュー

文:大川優花

 映画が始まって早々、赤字の字幕が画面に叩き込まれる。その瞬間、思わず『サイコ・ゴアマン』(2020年)を思い出した人もいるかもしれない。あのポップで悪趣味なテンションは、本作『デスストーカー』にも通ずるものがある。
 全体を覆うセピアがかった色調は、古びたファンタジー世界の空気を濃厚に漂わせる。だが、そのくすんだ世界を突き破るように飛び込んでくるのが鮮烈な赤色だ。開始早々、血、血、血の嵐! 肉は裂け、首は飛び、ぬらぬらと脈打つ臓物が惜しげもなく晒される。その瞬間、観客はこう思うはずだ。「コスタンスキがまたやってくれた!」

『デスストーカー』ポスタービジュアル

 舞台は破滅寸前のアブラクシオン王国。野蛮なドレダイトたちが暴れ回り、魔術師や怪物が蔓延る混沌の時代だ。戦いが終わり荒れた大地に一人の男が現れる。彼こそが、デスストーカーだ。偶然手にした呪われた魔除けに導かれながら、賢者の息子ドゥーダド、盗賊女ブリスベインらと共に世界の危機へと立ち向かっていく―――。
 物語だけを見れば、とことん王道だ。呪われたアイテム、滅びゆく王国、怪物、剣と魔法。映画ファンならばどこかで見たような要素ばかりが並ぶ。だが、不思議とまったく退屈しない。それはスティーヴン・コスタンスキ監督の映画愛が隅々まで滲んでいるからだろう。80年代SFやファンタジー映画への敬意をむき出しにしながら、とにかく「次はこれを見せたい!」という勢いで突っ走っていく。そのサービス精神がとにかく気持ちいいのだ。

最凶の救世主デスストーカーと
魔法を奇抜に使いこなすドゥーダド

 その勢いをさらに加速させるのが音楽だ。戦闘シーンを熱く盛り上げるのは、唸りを上げるギターとけたたましく叩きつけられるドラム。今回、本作にはガンズ・アンド・ローゼズのギタリスト、スラッシュが製作・音楽として参加している。これまでも『少女生贄』(2013年)などで映画製作に携わってきたが、本作ではとりわけ80年代カルト映画へのスラッシュの愛情が色濃く滲み出ている。次々と繰り広げられる戦いの数々と、そこに鳴り響く重厚なサウンド。その組み合わせが、この映画の無骨で荒々しい魅力をさらに押し上げている。

デスストーカーと奇妙な縁で結ばれる盗賊のブリスベイン

 本作の魅力は、そうして積み上げられた奔放さにある。ショットは物語を効率よく運ぶためだけに並んでいるわけではない。コスタンスキが映したいと思った瞬間を、そのまま画面に叩きつける。動きたいように動き、見せたいだけ見せる。その自由さは時に過剰ですらある。けれど、その過剰さこそがたまらない。理屈より先に「こういうのが観たかった!」がやってくる映画なのだ。そして、スタイリッシュなだけではない。コスタンスキ作品に通底するユーモアも健在だ。筆者が初めて彼の作品に触れたのは「死」にまつわる短編オムニバス映画シリーズ、『ABC・オブ・デス2』(2014年)だった。彼の担当作「W is for Wish」は冒頭、子供たちがおもちゃで遊んでいるシーンに始まる。さながら80年代のおもちゃCMのパロディのようだ。グロテスクとノスタルジーが同居する、あの独特のユーモアがすでに完成されていた。そして子どもたちが突如ファンタジー空間へ転移する。荒廃した世界、そこにひしめく化け物たち。今振り返ればまさしく『デスストーカー』的なファンタジー世界観へ直結している。そこにいるのは、凹凸だらけのツギハギ肉体、鎖が巻き付いた異形のクリーチャーたち。コスタンスキ特有の造形美は、この頃からすでに確立されていたのだと改めて気づかされる。

武骨さとスタイリッシュさを併せ持つ
クリーチャーの造形もたまらない

 本作がロジャー・コーマン総指揮のカルト的人気作、『勇者ストーカー』(1984年)を原作に持つように、80年代カルト・ファンタジーの血を色濃く受け継いでいることは間違いない。だが、その根底に流れているのはもっとシンプルで根源的なものだ。それは、子どもの頃に誰もが一度は夢見た、剣と魔法の世界への憧れである。
 『デスストーカー』は、その原初的なワクワクを、血と臓物とユーモアで乱暴に呼び覚ましてくれる。これほどグロテスクでありながら、決して目を背けたくなるような陰湿さには陥らない。むしろ最後に残るのは、爽快でエキサイティングな高揚感だ。その絶妙なバランス感覚こそ、まさにコスタンスキ監督の手腕と言えるだろう。是非映画館で、コスタンスキ・ワールドに没入していただきたい。

『デスストーカー』
7.3(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

監督・脚本:スティーヴン・コスタンスキ 製作:スラッシュ 出演:ダニエル・バーンハード、クリスティーナ・オルセロ、ポール・レーゼンビー
2025年|103分|アメリカ・カナダ|原題:Deathstalker|5.1ch|ビスタサイズ 日本語字幕:髙橋彩 配給:クロックワークス
© 2025 HANGAR 18 DEATHSTALKER MOVIE INC.

【執筆者】
大川優花(おおかわ・ゆうか)
大学院で映画を研究しながら、某映画館に勤務。映画秘宝公式noteで『シラート』評、月刊『映画秘宝』8月号で『お笑えない芸人』評を執筆。