取材・文:後藤健児
真実はどこにあるのか。誰かが嘘をついているのか。監督も観客も、その迷宮に入ったが最後、ある家族をめぐる壮大な謎の渦にのまれてしまう。スウェーデンのグルドバッゲ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した『グルスポングの奇跡』は、スウェーデンの小さな町グルスポングで起こった“奇跡”についての物語だ。ノルウェー人姉妹のマイとカーリは、グルスポングで一緒に住む家を探すうちに、一枚の絵画を目にする。その絵に魅了されたことをきっかけに、2人はオーウラグという女性と出会うのだが、彼女は2人の亡き姉リータにそっくりだった。どうやら、リータとオーウラグは双子であるらしい。今まで、お互いに存在すら知らなかった姉妹とオーウラグ。これは偶然などではない、まさしく奇跡だ。ドキュメンタリー映画作家のマリア・フレデリクソンは彼女らに密着し、過去に何があったのかを探っていく。その過程で、戦争がもたらした悲劇など様々なことがわかってくる。さらに、自殺したと思われていたリータの死因にも揺らぎが生じ、死んだ理由は別にあるのではないかと疑いがもたれることに。
はじめは奇跡を喜んだ姉妹とオーウラグだったが、しだいにその関係性にも綻びが現れはじめる。はたして、最後にカメラが捉えた、奇跡の先にある真実とは何なのだろうか。

9月4日から公開が開始された本作。東京・シネマート新宿では9月5日に、マリア・フレデリクソン監督が来日登壇。映画を観終わり、山ほどの疑問を抱えているであろう観客たちとのQ&Aに楽しく応じた。
※ストーリーの核心やラストに触れる質問もあったため、ルポで引用するのは一部の質疑に限らせていただいたことをご容赦ください。
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登壇したフレデリクソン監督は「こんなにたくさんの人々が今日この映画を観に来てくれてとても嬉しい。日本はわたしにとってすごくお気に入りの国。こうして今日皆さんと一緒にこの映画を観られて、とても光栄で夢が叶った気分です」と感謝の言葉を述べた。
早速の質問タイムへと移る。劇中で最大の謎とされるのが、リータの死の真相。監督自身はどう対峙したのかを問われると、フレデリクソン監督は撮影時に“葛藤”があったことを述懐した。「リータの死については、たくさんのことを考え、眠れない日々を何日も過ごしました。ある日は、もしかしたらリータは殺されたのかもしれないという結論になりましたし、また別の日にはやっぱり違うのかもしれないと。結論を出さないことには、この映画は完成させられないかもしれないと思っていた時期もありました」と思いを明かす。続けて、リータやマイがそれぞれに受け止めたように、観客にも各々の受け止め方があるのだろう、と監督は言葉を添えた。映画の中で監督はどこまで踏み込んだのか、どこまで真相に迫ったのかについては本編をご覧いただきたい。

作中では、リータ、マイ、オーウラグから監督への留守番電話メッセージが繰り返し流れる。この演出意図についての質問がなされた。そこにはドキュメンタリー映画ならではの理由があったようだ。「彼女たちの関係性は、奇跡の再会から始まった頃はスムーズでしたが、だんだん違いが現れて確執が生まれてくるようになりました。彼女たちがそれぞれわたしに電話をかけてくる機会が多かったんです」と人間関係の変化が作品の構成にも影響を与えたという。また、世界を覆った外的要因に、本作も逃れられなかった。「撮影中にコロナのパンデミックになってしまい、ノルウェーの国境が封鎖されて撮影を中断しなくてはいけなくなりました。それもあって、何が起きているのかを記録するため、電話の記録を日記のように残していました」とフレデリクソン監督。続けて、「トータルの時間は100時間くらいに及んだのではないでしょうか。映画に入れた理由は、わたしも含めた関係性がどのように変化したかを描写するために不可欠なシーンだと思ったからです。もちろん、電話の内容を映画の中に使っていいかは彼女たちから許可をいただきました」とプライベートな会話を映画に取り入れた意図を丁寧に説明した。

本作はドキュメンタリーでありながら、まるでフィクション作品を観ているかの壮大な劇伴も印象的だ。その素晴らしさに感銘を受け、サウンドトラックは絶対に聴くと強く口にした観客がいた。監督はお礼を言ったあと、解説を始めた。「音楽を手がけてくれたのはヨナス・コルストルプという作曲家の方。彼はドキュメンタリー作品の音楽をたくさん手がけています。映画が完成する前、ドキュメンタリー映画に、こんなにたくさんの音楽を使うのはあまりよくないのではないかという意見もありましたが、わたしや編集担当、音楽担当は、そんなことはないという意見でした。これはドキュメンタリーだけれども、壮大な話ですから、音楽も壮大にするべきだと。この映画はたくさんの話に変わっていきます。家族の幸せな再会だと思ったら、そこからホラーのような展開になっていく。様々なジャンルが組み合わさった映画だと思うので、音楽もそのようにどんどん展開させていきました」と経緯を説明。それから「サウンドトラックはSpotifyにあるので、ぜひよろしければお聴きください」とサウンドトラックの宣伝も忘れない。
本作は誰もが予想だにしない、めくるめく奇妙な物語を紡ぐドキュメンタリーとして高く評価された。だからこそ、ここまで壮大な作品を手がけてしまったら、次回作はどのようなものに挑戦するべきか。皆が気になるところだろう。最後の質問として投げかけたその問いにフレデリクソン監督が口を開く。「いろんな方に“『グルスポングの奇跡』の続編はいつ?”と聞かれますが、それはちょっと撮る気はありません(笑)」と柔和な表情で言いつつも「ただ、次の作品にも何が真実なのかをテーマに置いたドキュメンタリー映画を制作予定です」と明かした。その内容は、いまも真相が議論され続ける未解決事件だという。「1986年に起きた、スウェーデンのオロフ・パルメ元首相の暗殺事件。その真実を追ったドキュメンタリーで、タイトルは『We Killed Palme』。このプロジェクトを構想しております」と聞いているだけで期待が膨らむ最新情報を伝えてくれた。

Q&Aも終わろうというとき、フレデリクソン監督から逆に観客へ質問をしたいと要望が。マイとカーリ、オーウラグの関係性について、「〇〇と思う方は手を挙げてください」(一応、伏せさせていただく。どのような質問かは映画をご覧くだされば察してもらえるはずだ)と挙手がうながされた。筆者が見たところでは、なかなかに割れた人数だったと思う。観た人の数だけ解釈がある、ミステリー映画として理想的な形ではないだろうか。
最後にフレデリクソン監督があらためて観客へ挨拶。「この映画はお友達と議論したくなるような映画だと思います。ぜひご友人などを誘って観ていただき、話し合いをしてくださればと思います。今日は本当にありがとうございました」と感謝を述べ、観客からの拍手を受けながら壇上を降りていった。
【本文敬称略】
月刊『映画秘宝』(「秘宝新社」刊)10月号では、筆者がマリア・フレデリクソン監督にインタビューした記事が掲載中。WEB版の映画秘宝公式noteでは今井あつし氏による、異なる視点のインタビュー記事が掲載。これらも合わせてお読みいだければ幸いだ。

『グルスポングの奇跡』は、9月4日より、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿ほか全国順次公開
監督:マリア・フレデリクソン
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビー 他
原題:Miraklet i Gullspång|スウェーデン・ノルウェー・デンマーク|2023年|108分|カラー
ノルウェー語・スウェーデン語|フラット|5.1ch|G
日本語字幕:常磐彩|字幕監修:青木順子
後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館 配給・宣伝:カルチュアルライフ
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