文:後藤健児
青年の願望は日に日に増していた。単なる欲求を超え、それを満たさなければ自我を保つことができないほどに。その願いは“人を食いたい”という禁断の行為。あるとき、彼は一台のスマートフォンを拾ったことから悪党どもと関わりを持つ。運び屋の闇バイトに加担し、ブラッドマネーを手にしていく日々。悪の道を突き進むなか、青年の秘められた欲望はさらに増幅し、もう抑えられないところまできていた。欲望と悪徳がせめぎ合い、臨界点に達したとき、彼の心は……。
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山田純監督・脚本の『竜宮の誘い』(りゅうぐうのいざない)は、第19回田辺・弁慶映画祭で、サスペンス映画として初のグランプリ受賞を成し遂げた話題作。インディーズ映画のコンペティションでは、等身大の青春や共感性にあふれた作品が目立つ中で異例のことだ。他者への気遣いや優しさを持たない自分本位な主人公が、欲望と狂気にのまれていくサイコ・クライム・スリラーとも呼ぶべき無軌道でハードな物語ではあるが、本作もまた“青春ドラマ”として受け止めることは可能だ。未来図を描けない若者。他者とつながれない孤独さと、そこから生じる軋轢。皆が歩むレールを越えた枠外で体験する地獄めぐりと、自己の見つめ直し。凄惨で血にまみれはすれど、紛れもない青春ストーリーだろう。
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社会との関わりを続けながら、若者のうちに眠る獣性や凶暴性が発露していく物語としては、ベジタリアンの一家で育った獣医学校の学生が肉の味に目覚める『RAW 少女のめざめ』(2016年)や、同作のジュリア・デュクルノー監督による、自動車への異常な執着心から狂気に陥っていく女性を描いた『TITANE チタン』(2021年)が思い出される。『竜宮の誘い』も“目覚め”と“執着”の話だ。青年サトウはその行為を欲していることに気づいてしまう。目覚めたが最後、願望に絡めとられてしまった者は、社会に置ける自身の立ち位置や周囲との関係性などかなぐり捨てても、“それ”を達成せざるをえなくなるのだ。
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ノワール風味のジャンル映画としても硬質なつくりだ。日常から非日常へシームレスに流れていく展開と、非現実な出来事を“映画の中で起こる、至って現実的な事柄”として違和感なく観客に受け止めさせることができているのは、しっかり練られた脚本と、それを実現するための確固たる意思を持った演出あってこそ。韓国の犯罪映画を思わせる、ひと癖もふた癖もある個性豊かなワルどもの造型や、人里離れた場所に生息する犯罪コミュニティの異様な生活習慣がゾクリ楽しい。インディーズ映画でも臆することなく、銃撃シーンやカーアクションにトライした胆力は気合十分。
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そして、転換する日常と非日常、緩急ついたドラマを一本の軸として“テーマ”が貫く。青年が抱える、人道の観点からは決して許されない“欲望”の深さに作り手たちは寄り添い(そう、“寄り添う”とは必ずしも、優しいテーマだけに使われるものではない)、哀れなる者が歩む破滅への旅路に伴走する。映画館の椅子に着席した観客もまたその旅に同行し、映画の最後に青年が目撃するものを共に見つめる。
恐怖が人間の本質をえぐるというのならば、スリラーこそはまさに“人間を描く”映画の本質に最も迫れるジャンルなのかもしれない。本作はそれをあらためて考えさせてくれた。
『竜宮の誘い』は「田辺・弁慶映画祭セレクション2026」にて、東京・テアトル新宿で 5月8日(金)から1週間上映、6月17日(水)より大阪・テアトル梅田で2日間限定上映。さらに、6月6日より池袋シネマ・ロサ、6月27日より大阪・第七芸術劇場での公開を控える。
【CAST】 戸張瞬 美南宏樹 伊藤広大 楠本奈々瀬 唯木美里 春歌まりん 加藤亜紀歩 春園幸宏 関淳平 鯉家愛海 天萬愛紗 古屋美彩
【STAFF】 脚本・監督・製作:山田純 撮影:近藤実佐輝 音楽:デリス・フィールド(Delyth Field) 照明:岡上亮輔 美術:渡部健太 特殊造形:土肥良成、李華曦 サウンドデザイン:坂井泉 助監督:中山春佳、間合建介 アソシエイトプロデューサー:出町光識 海外セールス:Reel Suspects 配給:Cinemago
2026年/日本/カラー/5.1ch/92分/DCP/R-15+
©Yamada Jun /Cinemago
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