第27回東京フィルメックスが今年も開催される。テーマは“「わたし」から「わたしたち」へ ――キーワードは「みんな他人じゃない」 ――”

レポート

巻頭写真 昨年の第26回東京フィルメックス授賞式の様子
文:大川優花

 宝石のような輝く映画と出会える祭典、東京フィルメックス。思えば、昨年11月の第26回(2025年11月21日~11月30日に開催)からもう一年近くが経つ。昨年の授賞式を振り返ってみたい。スペシャル・メンションと学生審査員賞を受賞したのは、アレクサンドレ・コベリゼ監督の『枯れ葉』。ジョージアを舞台に失踪した娘を捜すうちに自身の心の迷宮に入り込んでいく父親の旅を見つめた物語。コベリゼ監督は「わたしは、いまも学生時代と何も変わっていません。ある意味、学生のように映画について学び続けています。そして、若い方々がわたしの映画を気に入ってくれてよかったです」と謙虚な姿勢を見せていた。
 審査員特別賞に選ばれた、内山拓也監督『しびれ』は寒々しい日本海沿いの町で、過酷に生きる母と息子の関係性を哀切と緊張感をもって紡ぐ。講評では、“撮影される体の動きから独特の動きを引き出す”ことが評価された。内山監督は「すべてのスタッフ、キャストの美しい仕事を誇りに思っています。この映画は個人的な経験に根差している映画。田舎の貧困層に生きる少年の姿を映しながら、経済的なことのみならず、社会のあらゆる階級に生きる心の貧困に光をあて、祝福することを目指しました」と作品のテーマを真摯に述べた。
 最優秀作品賞に輝いたのは、ローハン・パラシュラム・カナワデ監督『サボテンの実』。ムンバイに住む青年が父親の葬送儀式のために故郷の村に帰ってきたことから、伝統的な文化の中で自らと対峙する様子を丹念に描いた。抑圧と宗教的厳格。ふたりの青年。緻密な映像言語。誰もが自由に呼吸できる心の叫び。それらが観る者の胸を打った。
 審査員のひとりであるラモン・チュルヒャー監督が「人生における光のみならず、光と影の両方を描く作品が多かった」と語り、「素晴らしい時間を過ごすことができ、豊かな多様性を持つ、アジア映画を旅することできた」と映画祭への感謝を伝えた。

 そして、豊かな多様性を持つ物語は、今年も届けられる。2026年11月20日(金)~11月29日(日)の期間、待望の第27回東京フィルメックスが開催。今回のテーマは“「わたし」から「わたしたち」へ ――キーワードは「みんな他人じゃない」 ――”。

 昨年は、様々な境遇の中でゆるぎない“個”を律する作品が多く見られたが、今年はゆるがぬ精神性に紐帯する“わたしたち”の物語を強く打ち出すラインナップとなっている。
 コンペティションには、右往左往する大人たちの間で、7歳の少女がたくましく快活に生きようとする、シンガポールの『阿Girl』や、韓国の小島に暮らす17歳の少女が、島に戻ってきた幼馴染の少年と過ごすうちに思いがけない事態へ発展する、韓国の『The World Before(英題)』などの良質な作品がそろった。ミニマルな物語だけではなく、フィリピンのデジタルノワール『リモート』は、不可解な交通事故の多発により混沌と化したマニラを舞台に、妻を亡くした刑事が、交通事故の裏に潜む闇を探っていくスケールの大きな作品。
 特別招待作品枠も注目だ。原田マハ監督による、父の足跡をたどる女性の物語『無用の人』や、ツァイ・ミンリャン×リー・カンションの新作『微塵』、さらにはコゴナダ監督、ホン・サンス監督、ジャ・ジャンクー監督の新作まで網羅。
 厳選された3本のメイド・イン・ジャパン枠も見逃せない。山西竜矢監督『かすかな彼を抱きしめて』、ザビエル・テラ監督『太陽ぬ色』、佐々木想監督『22世紀の猫』。何かを失い、何かを求める、三様の物語は、観客にいかなる視座を与えるのだろうか。
 あらゆるとき、あらゆる場所で物語られる“わたしたち”を映画祭で目にしたいと思う。
【本文敬称略】

第27回東京フィルメックス
開催期間:2026年11月20日(金)~11月29日(日)
会場:有楽町朝日ホール/丸の内ピカデリー/ヒューマントラストシネマ有楽町

【上映作品】
■コンペティション作品
阿Girl / Ah Girl (シンガポール)
天に至る9つの寺 / 9 Temples to Heaven (タイ、シンガポール、フランス、ノルウェー、中国、香港、インドネシア、カタール)
燃える巨神 / The Burning Giants (タイ、シンガポール、フランス、オランダ)
嘘の生活 / Big Little Things (香港、アメリカ)
The World Before(英題) (韓国)
ひとすじの光 / A Bit of Light (イラン、スイス、イタリア、カナダ、トルコ)
霧の中の象たち / Elephants in the fog (ネパール、ドイツ、ブラジル、フランス、ノルウェー)
リモート / The Remotes (フィリピン)
ものがたり / Gu Shi (アメリカ、香港、タイ)
十月のうた / A Song from Beyond (日本)

■特別招待作品
無用の人 / In My Father’s Room (日本)
みんな他人じゃない / We Are All Strangers (シンガポール)
獣たちの熱い夜 ある帰還兵の記録 / The Story of Woo Viet (香港)
Zi (アメリカ、香港)
彼女が戻ってきた日 / The Day She Returns (韓国)
American Doctor(英題) / American Doctor (アメリカ、パレスチナ、マレーシア、カタール、デンマーク)
館長、最後の日 / The Day He Retires (日本)
微塵 / Dust (台湾、スペイン)
夜行 / Night Journey (台湾、チェコ)
トリノの影 / Torino Shadow (イタリア、中国 )
もしトゥイがいなかったら / And If Thuy Didn’t Exist (フィリピン、フランス、インドネシア)
牛曲 / The Bovine Comedy (フランス)

■メイド・イン・ジャパン
かすかな彼を抱きしめて / Goodbye, Absence (日本)
太陽ぬ色 / The Color of the Sun (カナダ、イタリア、日本)
22世紀の猫 / 22nd Century Cat (日本)

【執筆者】
大川優花(おおかわ・ゆうか)
大学院で映画を研究しながら、某映画館に勤務。月刊『映画秘宝』や映画秘宝公式noteにて執筆。

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