巻頭写真 (左から)大塚信一監督、尾関伸次
取材・文:後藤健児
大塚信一監督の『POCA PON ポカポン』が5月9日より東京・新宿ケイズシネマで上映開始される。故・長谷川和彦監督に師事した過去を持つ大塚監督。その最新作は少年犯罪がテーマ。うらさびしい地方の団地に住む少年と、かつて世間が騒然となった凶悪少年犯罪を引き起こした中年男が邂逅する罪と罰の物語だ。大塚監督の前作『横須賀綺譚』(2019年)からさらに深化した本作。団地と猟奇殺人犯と天の声。現代日本映画において非常にハイレベルな対話劇に身震いする傑作だ。
このたびの一般劇場公開に合わせ、昨年の第38回東京国際映画祭でプレミア上映された10月28日、大塚監督と、中年男を演じた尾関伸次が登壇したQ&Aの模様をお届けする。
まずは本作の制作経緯について。『横須賀奇譚』のあと、次作への模索を経て、ある企画が頓挫したことから低予算でできるものを考えていたという。そこで着想のもととなったのが、1997年に発生した中学生男子による“神戸連続児童殺傷事件”だった。しかし、実在の事件や犯人に肉迫することはせず、創作物として練り上げていったことを振り返った。
孤独な少年と触れ合う、元少年犯罪者の管理人を演じた尾関は、大塚監督と共に企画当初から作品づくりに携わった。「監督はいつもアポなく急に来る。今回の企画も3年くらい前に突然、新宿に呼び出されて、3行くらいのプロットをもらったんです。そこから肉付けしていきました」と言い、続けて「子供を主人公にして、その子を未来に差し出す。怪物誕生前夜の話にはしたくなかった」と希望を持った物語に構築し直したことを明かす。
劇中では“蝶”が印象深く映り込む。どういった意味があるのか。大塚監督によれば、文化庁からの助成金がクランクアップ後におりたことで、追撮をする余裕が出てきたのだという。そこで求めたのは“自然”だった。「人間のドラマとまったく関係のない動物の視線をもっと入れたかった。でも、実際に動物を撮るほどの予算はなく、CGの蝶々を入れました」と裏話を語った。
『横須賀奇譚』の頃から大塚監督の自然へのこだわりは強い。登場人物の頭に響く天の声“ポカポン”についても「自然は人間の都合を考えずに、人間を癒しもするし、殺しもする」と述べ、その思いを象徴したものが天の声なのだろう。タイトルにもなっている“ポカポン”は、太宰治の『トカトントン』からきているそうで、価値観がガラッと変わり、すべてがむなしくなることを込めたという。
我が子を殺された母親役に山崎ハコ。この日、客席にいた山崎が立ち上がり、現場で感じた気持ちを時折に言葉を切りながら、ゆっくりと吐き出した。山崎は言う、「思うことは自由なんだ」と。「50年も歌手をやっている歌い手なので、お芝居はできない。だけど、思うことはできる」と台詞を口にする行為を越えた先にある“思い”の大切さを語った。
大塚監督が再び、マイクを握る。「凄惨な話だけど、じんわりきたという反応もいただきました」と伝えたが、その言葉はその場にいた多くの観客たちも同意する思いだったことだろう。
【本文敬称略】
出演:原田琥之佑 尾関伸次 菜葉菜 大角英夫 川瀬陽太 山崎ハコ 足立智充 久田松真耶 木村知貴 牛丸亮 松本太陽
監督・脚本:大塚信一
音楽:新音楽制作工房/菊地成孔
プロデューサー:森田一人 浅野博貴
アソシエイトプロデューサー:出町光識 安田初子
撮影・美術:永山正史 照明:神野誉晃
録音:佐藤祐美 VFX:佐治英理人
助監督:平波亘 國谷陽介 秋葉美希
配給:インターフィルム Cinemago
2025/日本/94分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch
「凄惨な話だけど、じんわりきたという反応もいただきました」大塚信一監督『POCA PON ポカポン』が昨年の第38回東京国際映画祭でのプレミアを経て一般公開を開始。
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