『バケモノ』激安民泊を舞台に化け続ける“物体”に狙われた貧困都民たちの明日なき闘い!

レビュー

巻頭写真 ダグ・ルース監督
文:後藤健児

 “物体”は化けることをやめない。東京のどこかに佇む、一泊数千円の民泊。労働者や大学生、若いカップル、外国人英語教師――誰もがわけありで、この場を訪れる。彼らの暗い心のうちに呼応するように“何か”がやってくる。それは現実に姿を現し、形を変化させながら彼や彼女に迫る。“何か”はついに“バケモノ”と化し、民泊を阿鼻叫喚の修羅場へと変えていく……。
 『THE SKY HAS FALLEN』(2009年)で知られるダグ・ルース監督による長編3作目の『バケモノ』(2023年)。監督・脚本・撮影・編集・音楽、そして特殊効果をひとりで手がけた。CGを使わず、プラクティカルFXで撮影されたアナログ造型のモンスターが、ヌメヌメした表皮をテカらせ、触手をビュンビュン振りまわし、大暴れ。今年公開されたアンソニー・ディブラシ監督『MALUM 悪しき神』(2023年)もアナログ造型のクリーチャーにこだわっており、両作ともに“人心が生み出す恐怖”をテーマにしている。実存性の境界が重要となる場合、現実にはその場にいないことが明らかなCGではなく、役者が実際に生身で接触しうる“造型”が持つ実在感が発揮する効果は絶大だ(もちろん、アニメーションはそれならではの活用がある)。登場人物の深層心理の“具現”と結びつく、手法とテーマの在り方として最適な制作スタイルだ。
 本作は2026年5月1日~7日の一週間限定で、東京・シネマート新宿でのレイトショー。初日にはダグ・ルース監督をはじめ、キャストが登壇する舞台挨拶が行われた。2日目以降もダグ・ルース監督は、時間の許す限り劇場を訪れ、サイン会や写真撮影に応じる気さくさを見せた(巻頭写真に写る監督の着るTシャツもナイス。本当に“物体”が好きなんだろう)。

シネマート新宿の『バケモノ』掲示ポスター。劇場でかかるとはつまり興行として広く世の中に宣伝されることだ

 低予算ホラー映画は配信直行が多い中、こうやって映画館にて大スクリーンでかけられることの意味を考えたい。筆者が鑑賞したのは上映日から5日目だったが(同じ時間帯に、都内の某所では別のとある話題のホラー映画が一夜限りで限定上映されていた。『バケモノ』を選んだ観客たちの思いの結びつきはより強固なものに感じられた)、そのとき訪れた他の幾人かの観客たちとレイトショーで黒く暗い画面を見つめていると、劇中の“民泊”に滞在しているような奇妙な一体感を得られたのも楽しい体験だった。

『バケモノ』
監督:ダグ・ルース
出演:入江崇史 夏目ユリカ 川上マリリン 裏地圭 高瀬友規奈 野村美樹 ドミニク・アーリー
2023年/日本/日本語・英語/101分/自主規制:R18/カラー